一週間以上も空いてしまいました。勉強に本腰を入れていたら少し煮詰まってきたので、ブログを書いて気分転換してみます。
今回はハーグ編最終のマウリッツハイス美術館編です。マウリッツハイス美術館は、誰もが一度は目にしたことがあると思われる、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が所蔵されていることで有名です。以前は、日本をはじめ世界中からの要請を受けて貸し出しされることもあったのですが、現在は門外不出として、この絵を見るためには、マウリッツハイスに出向く必要があります。(ただし、2023年に大フェルメール展をアムステルダム国立美術館で開催するため、特別にアムステルダムでこの絵が展示されることになっています。)
フェルメールブルーとも称されるラピスラズリ由来の晴れた午後の海の色のような青から、「青いターバンの少女」としてもよく知られているマウリッツハイス自慢の "箱入り娘"。
大粒の真珠の光沢感の描写は本当に見事だと思いました。実際は、真珠の大半は暗色で彩色され、明るい色が使用されている部分は4割以下にもかかわらず、離れてみたとき、際立つ真珠の存在感は、さすが光の魔術師、フェルメールの本領発揮、ということなのだと思いました。
真珠の耳飾りの少女のほか、マウリッツハイス美術館には、世界で35点しか現存しないフェルメールの作品が、他に2点あります。
まずは「デルフトの眺望」。美術通の人々から非常に高い評価を得る玄人好みの傑作だそうです。この絵が売りに出されたとき、オランダの最高峰の美術館、アムステルダム国立美術館がこの絵を熱心に所望した話は有名です。結局オランダ政府が買い取り、当時の王様の裁量でマウリッツハイス美術館が所蔵することになりました。(そしてそう聞くと、素人の自分にも素晴らしく見えてくる不思議。)
さまざまな絵画技巧を駆使した作品にもかかわらず、穏やかで柔らかくそれを感じさせないのがフェルメールの才能なのだと思います。技巧などプロフェッショナルな話はよくわからなくとも、右側から差し込む光に照らされる街並み、穏やかな水面、集う人々、オランダらしい厚い雲の広がる空、全てに静かな時間が流れている、見ているだけで癒される作品でした。
3点目は「ディアナとニンフたち」です。
狩の女神、ディアナが彼女の召使いであるニンフに足を洗ってもらっている場面です。きちんとお座りをしている従順そうな猟犬が個人的にはツボ。フェルメールっぽさが薄いな、と感じたのですが、調べたらほぼ無名だった頃の作品だそうです。マウリッツハイスの説明が非常に参考になります。しかし、やはりフェルメールの絵特有の「静けさ」はこちらの絵にも健在だなと感じました。上品なんだ、フェルメールの絵は。
そしてシャンデリアの灯り、ちょっと邪魔。
次はオランダを代表する画家の一人、レンブラントのマウリッツハイスコレクションです。
レンブラントといえば、世界3大絵画の一つに数えられているアムステルダム国立美術館所蔵の「夜警(Night Watch)」の作者として有名です。
"NICE DAY FOR NIGHT WATCH(今日も夜警日和)"
と書いてあった。
"Nice clothing for Night Watch!(絵にぴったりですね)"
と話しかけたら、
”I know, right? (でしょう?)”
と満足そうでした。実際目の前で見ると、この大キャンバスの光と影を完全にコントロール化においたレンブラントの偉大さに圧倒されます。
ゆえに、このガラス板の境界線が邪魔。これ、ほんとどうにかしてほしい。
さて、その巨匠レンブラントですが、自画像を山ほど描いています。今で言うと、自撮り大好きおじさんというところでしょうか。こちらでレンブラントの数々のセルフィーならぬ、セルフポートレイトを見ることができます。
絵画同様私生活でも抑制の効いたフェルメールとは違い、入ったら入った分(ときにはそれ以上)使ってしまう浪費家のレンブラントは、常にお金がなく自分の腕をアピールするため、自画像を積極的に書いたという説も有力です。まあそこはさすがにレンブラント、金が目的でも素晴らしいものは素晴らしい。
こちらがマウリッツハイス美術館が所蔵するレンブラントの「自画像」。
最晩年の作品だからなのか、この絵画は巨匠オーラを感じさせない親しみやすい表情が印象的です。でも、テクニックなど最晩年でも衰えないってすごいなと思いました。
トロニーなので架空の人物。でもこんな絵を見せられたら、写真のなかった当時、自分もこんなふうにかっこよく(加工して)描いてもらいたいって金持ちは思うわな。渋くてドラマチックで、起きたら目に入るように自分の寝室に掛けとくわ!と名士たちがこぞって注文に行ったのが分かる(予想)素晴らしさです。
そして夜警と並ぶ、傑作がこちら、「テュルプ博士の解剖学講座」。
外科医たちの集団肖像画。オランダ版、元祖ターヘルアナトミア。博士の自信に満ちた堂々とした表情、熱心に講義を受ける医者たち、そしてその中心に横たわる真の主役ともいえる死刑囚をも丁寧に描いた、一度見たら忘れられない作品。これ見るとレンブラントやっぱすげーな、と思うし、性格的にちょっと変とか金遣い荒いとか、なんか偉人のちょっとした悪癖って感じに思えちゃうのは、モーツァルトに通じる。
さて、次はこれめちゃくちゃオランダじゃん、と思った2枚です。これらもまたマウリッツハイスを代表する2作です。
遠くに見える教会と赤茶色の街並み、点在する風車、平らな土地。すこし郊外に行くと今もまさにこんな感じです。The オランダ。農家の家の前では布を皆で漂白しています。干された白い布は、持統天皇の "春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天香山" って感じでしょうか。
これは雄牛が等身大で描かれた大きな絵で、画家の気迫が伝わる絵。こちらもオランダオブオランダな風景で、郊外にはこんな景色が続いてます。厚い雲。平たい牧草地。牛、羊ときどきヤギ。手前のカエルとか、牛にたかるハエなど、細かいところまで書き込んである絵でした。
漁船商船が入り混じるオランダ黄金時代の海を切り取った絵画。低い地平線と大きな空がこの画家の特徴だそうです。やはりどの絵にも共通するオランダな雲。空、とくに雲の迫力を感じる一枚。
親子3代の自堕落を描いた作品。楽しい怠惰な生活してるとこんなんなっちゃうよ?やっぱ清貧しないと!という戒めの意味を持つ作品。でも、なんかきっとピューリタン的清貧を是としながら、抑圧された楽しさへの憧れってあっただろうな、と思ってしまった。なので、勝手に決定。この絵の裏テーマ「人生楽しんだ者勝ち」(異論は認めます)
これリアルだなーと思った。マリアもキリストもその他もろもろも神々しくありがたく描かれがちだけど、実際、羊飼いや農民とか一般庶民ってこんな感じだったろうな、と。赤ら顔とか、しっかりした肉感とか、純朴そうな感じとか。そう言う意味で、宗教画というより、ある農村のコミュニティの新生児誕生を絵にしてみた、というリアリティさを感じる印象的な作品でした。
こういうのが、まさに祭壇に置く正当な宗教画。高貴なるものは悲しいといえども感情をあらわにしないのです、というような表情の変化に乏しいところが神々しいといえば神々しい。でも宗教と切り離して、絵としてのっぺりとした人間味のないこういう中世ちっくな絵も結構ツボります。(時代としては中世の絵ではないですが)
どちらも真っ直ぐな背筋から強い意志を感じる。凛としたいい絵でした。
十字軍遠征の寓話?から。左の寝ている人がキリスト教側の最強戦士リナルド。右がイスラム軍が送り込んだ魔女アルミーダ。殺すつもりが、イケメンぶりに魅せられてしまい殺せなかったという話から。
でも、個人的には遠足に園児を連れてきて疲れてしまった先生って感じに見えます。キューピッドが園児ばりにやりたい放題やっちゃってます。


2時間弱滞在して、マウリッツハイスを後にしました。出てくる前に、もう一度この絵を観てきました。
2023年2月10日から6月4日までアムステルダム国立美術館で大フェルメール展が開催される予定で、門外不出のこの絵も特別に貸し出される予定です。来年チューリップの美しい季節にオランダにいらっしゃる方があれば、過去最大規模のフェルメール作品を一度に鑑賞できるまたとない機会ですので、訪れてみてはいかがでしょうか。(うちの親も来たがってます。)
アムステルダム国立美術館による史上最大規模のフェルメール展の案内。動画で館長が、自分が待ちきれない!と話してます。