オランダ留学記

トラブルが寄ってくる体質。2022年8月から2023年7月までオランダの大学に交換留学にきています。純ジャパ。

ロンドン旅行記4、雨の最終日はナショナル・ギャラリーで名画鑑賞。ルートン空港からスキポール空港へ

 

 

ロンドン旅行記最終日です。

4日目の朝は、ホテル(寮)をチェックアウトして、まず初日から気になっていた最寄りのベーグルショップへ。

 

ロンドンで人気のあるベーグルチェーン、Bベーグルのトッテナム・コート・ロード店。

エブリシングのベーグルをトーストして、スモークトサーモンとクリームチーズを挟んでもらった。

コーヒーとよく合い美味しかったです。クリームチーズ&スモークサーモンに関しては、二日目に行ったベーグル・ベイクももちろん美味しかったですが、こちらのお店の味の方が個人的には好みでした。ベーグル以外のメニューも豊富で、スープやイングリッシュブレックファストなども店内で食べられます。

 

ナショナルギャラリーへ向かう途中、パレス・シアターを通りました。

ハリポの呪いの子が上演されています。

ハリポとこの劇場の雰囲気がなかなかマッチしていて、ハロウィーン感というか、魔法感?を醸し出しています。

 

ナショナル・ギャラリーに到着しました。広場のクリスマスマーケットも午前中から営業開始してます。

大英博物館同様、入場無料

 

さすが、在りし日の世界の覇権者イギリス、その威信をかけた素晴らしいコレクションです

傑作の宝庫ゆえ必見の名画でさえもはや把握しきれませんが、有名無名にかかわらず(いや、全て有名だろうけど)個人的にいいな、面白いなと思ったものをご紹介します。

 

まずはこの2枚。

宗教画は基本ありえない人智を超えた世界が描かれるので、SFチックになりがちですがこの2枚もそんな感じ。

 

建物を貫通して(穴があいて)頭上に届く宇宙光線にUFO感を感じる。

カルロ・クリヴェッリ「聖エミディウスのいる受胎告知」

宇宙光線は別にして、精密で装飾的で、中世らしい固さがあって、個人的にこういう絵は好きです。

 

次ももっとすごい。

この悪魔、あまりに斬新で一瞬、え、現代アート?と思ってしまいますが、約600年前に描かれた絵。

バルトロメ・ベルメホ「悪魔に打ち勝った天使ミカエル」

めちゃくちゃキャラ感のある、愛嬌を感じるロボティックな悪魔、とそれを見下ろすミカエルの冷たい目とうすい笑み。一度見たら忘れられない。

 

こういう構図、結構考えさせられる。

自らを正義と疑わない側は、悪と決めつけたものを情状酌量の余地もなく断罪する。そして、盲目的な正義の信奉者は思考停止に陥って、他人の置かれた状況にも痛みにも無関心。宗教画だけど現代に通じます。

 

さて、ナショナル・ギャラリーにはベルギーの巨匠ルーベンスの絵画もたくさん所蔵されていました。

その中で、最も気に入ったのはこちら。

ルーベンス「ライオン狩り」のスケッチ
躍動感と疾走感にみなぎっています

ライオンに襲われる馬と人の怯えた表情の描写も素晴らしいです

 

次はナショナル・ギャラリーのキッズたち。

ファン・オースト「11歳の少年の肖像 (Portrait of a Boy aged 11)」
ブルージュの裕福な家の少年の肖像画だそうで、ウールの生地感とか、髪の毛の描き方とか、とても繊細です。全体的に抑えた色調が、少年の物静かさを際立たせていました。

 

次は笑顔満面の子どもらしい肖像画

こういう顔だちの子供、ヨーロッパで見る!

ホガース「グラハム家の子供達」

幸せ絶頂に見えますが、一番左の赤ん坊のトーマスは、絵の完成前になくなりました。ホガースは背景左奥の時計のキューピッドに死の象徴の大鎌を持たせてこの絵を仕上げたそうです。

 

最後は、子供らしさよりもプライドが光るやんごとなきお子様たち。

ファン・ダイク「バルビの子供たち」
見よ、この強烈な選民意識。豪華な衣装ですら霞む、庶民を見下すような眼力が一周回って清々しい。

バルビ家所蔵の絵ですが、カラス(右下)が家紋の、ジェノヴァの有力貴族デ・フランキ家(知らんけど)の子供たちらしいです。

 

 

レンブラント部屋もありました。

「聖パウロに扮した初老の男」

レンブラントに関してはホームランドであるオランダが最も素晴らしい絵(夜警とか解剖学教室とか)を持ってますので、確かにこれでも十分すごいけど、やつが本気出すとこんなもんじゃないよね、という印象。

 

オランダつながりで、こちらもオランダの誇る名画家、フランス・ハルの「髑髏を持つ若者」

口よりも雄弁な右手の描写が素晴らしい

 

髑髏つながりで、次はこちら。

ナショナル・ギャラリー必見の絵画です。

ホルバイン「大使たち」

これは大迫力の絵。精力的な若い権力者の佇まいや、小道具が一つ一つ(ざっくり言うと、知性、教養めっちゃ高いよ、という意味らしい)丁寧に描かれています。それだけでも、素晴らしいんですが、この絵を有名にしているのは、中央の骸骨。

 

うーん、言われるとなんとなくわかるけど、なんかがいこつ、ちょっと違うくない?と思われると思いますが、是非下の絵を左右どちらからでもいいので、真横から覗いてみてください。

円筒投影して眺めるアナモルフォーシスという画法だそうです。

若さは一瞬であること、生と死は常に隣り合わせであること、を示すモチーフとして、若者と骸骨のコンビネーションは確かに好対照です。

 

次は、爬虫類系美女の大家、クラナッハ

「ヴィーナスに訴えるキューピッド」
盗んだ蜂の巣を手に、蜂に刺されて痛いわーとヴィーナスに訴えるキューピッドと、息子はとりあえずネグレクトしといて、謎の微笑みで鑑賞者を惑わすヴィーナス。人生の束の間の幸せは痛みを伴うもの、というラテンの格言を絵にしたものだそうです。

クラナッハはどうやらかわいい系少女も描けるらしい

「ある女性の肖像」

説明書きによると、クラナッハは理想の女性(ヘビ系美女)も実際?の女性もどちらも描いたそうで、こちらは後者。

5月のウィーン・プラハ旅行でクラナッハのユディト(ヘビ系)を見ましたが、素晴らしかったです。(ロンドン記の後、書いていこうと思います。)

 

次は、こちらもナショナル・ギャラリーのお宝の一つ、

ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻像」

技法、小物、緻密さ(鏡の中に映り込んだ画家自身も含めて)、全てファン・エイクの天才っぷりが遺憾無く発揮された絵、らしいですが、この絵の気になるとこってそこじゃない。

結婚式の場面なのに、この新郎の座った眼、1ミリも喜んでないじゃん。まるで、オーベルシュタインじゃん、これ。まあ、富裕層や特権階級にとって、結婚は権力や資金力の延長線、これくらいの義務感というか浮世の義理感がデフォルトなのかもしれません。

 

ナショナル・ギャラリーにはラファエロ部屋もあります。

カーネーションの聖母子」
隣の説明によると、ドレープの光と影の書き込み、肌の質感の変化、髪のベール、全ての高度の技術が、ラファエロの手にかかれば優しげな絵画になる、そうです。たしかに。

アレクサンドリアの聖カタリナ」
こちらも安定の柔らかさ。拷問小道具の歯車に寄りかかっても平安さ健在。

 

イタリア美女を描いたら、ラファエロに負けないのがボッティチェリ

ボッティチェリ「ヴィーナスとマルス
ボッティチェリらしい美しい絵。婚礼の記念に描かせた絵らしいです。

でも、なんかマルスが目覚めたら、ヴィーナスいなくなってそうにみえる。なんか、例えるなら「眠りかけた男達の夢の外で、目覚めかけた女達は何を夢見るの」っていう井上陽水の『最後のニュース』の歌詞みたいに。

 

そしてこちらは自立した女性の肖像画2枚。

ゲインズバラ「シドンズ夫人」

結婚の破綻とたくさんの子供達を抱えながら、英国を代表するシェークスピア劇の俳優になった女性。ただ、綺麗なだけじゃなくて、たくましさみたいなものを肖像画からも感じます。

 

ル・ブラン「麦わら帽子の自画像」

マリー・アントワネット肖像画も書いた画家だそうで、この自画像良い作品だと思います。希望と決意に満ちていて明るい。

 

この絵は同じナショナル・ギャラリー所蔵のルーベンスの代表作「シュザンヌ・フールマンの肖像(麦わら帽子)」から着想を得たそうです。

肖像画の中に、好きな歴史上の人物も発見。

シャンパーニュリシュリュー枢機卿

陰謀と騙し合いと駆け引きの天才ゆえ悪役というイメージが強いけれど、彼の全ての行動はフランスを大国にするというぶれない目的ゆえの方策であり、ブルボン朝繁栄の尽力者にして大政治家。

智略をフル活用して、不遇の時代も耐え、どんなに周りが足を引っ張っても命を狙っても、失脚しなかったしぶとさ、やっぱかっこいいなリシュリュー

 

フランス印象派もたくさん所蔵されていました。

ルノワール「雨傘」
ブルーブラックやブルーグレーの濃淡で描かれた絵。左の女性のように無帽で出歩くのは、当時は身分が低い証拠だったそうです。周りの人に比べて悲しげに見えるのはその背景ゆえかも。

 

モネ「睡蓮の池」
鬱蒼と生い茂る緑と水面で花を咲かせる蓮が太陽に照らされていて、これぞ夏という絵画。

でも蚊も絶対ここ大発生してるから。オランダも水辺が多いせいで蚊がやばいから、見ただけでわかる。そして網戸文化ないから(景観重視とかあほなの?)巨大蚊に刺されまくる。

 

さて、今回ナショナルギャララリーでやっぱりすごいな、と一番感動したのはこちらの画家。

かつてはオランダ人の恥、現在は誇り
フィンセント・ファン・ゴッホ

彼の絵を認めてくれたのは、生前は弟テオ一人のみ。今は、ゴッホの絵は世界中の人に愛され、オランダ、アムステルダムゴッホ美術館も最低二週間前でなければ予約できないほど人気です。よかったね、ゴッホ

魂の、エネルギーの吐露、としか表現できない圧倒的存在感

耳をそぎ落としたり、ピストル自殺したりと奇行が有名なゴッホですが、本人はいたって優しく内向的で純粋。娼婦にも農夫にも同情してしまう。

 

何をやってもうまくいかない、空回りばかりして、挫折ばかりして、人々に冷笑され、家族に呆れられ、それが苦しくて悲しくて、押しつぶされそうな感情を絵の具にして(実際はテオが買ってるけど)、希望を筆にして(これも実際はテオが買ってるけど) 表現した画家。

 

「二匹の蟹」
筆遣いがエネルギーそのもの。いい絵だなー。

「糸杉のある麦畑」
ゴッホが病院入院中1年間見続けた麦畑。麦も木も山も雲も、自分に向かってくる何かを逃そうとしてうねる。ゴッホの絵は色遣いが明るいから、重いけどムンクみたいな暗さがない。

 

あー、本当にすごかった。

 

次もなかなかショッキングな重い絵ですが、ナショナルギャラリーのとっておき。

ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」

ジェーン・グレイはイングランド初の女王になりますが、在位9日で廃位され、幽閉の後処刑された人物。処刑時16歳でした。夏目漱石がロンドン留学中にこの絵をみて、小説「倫敦塔」を書いたそうです。自分の首置き台を確認しようと伸ばす手が悲しすぎる。

 

重すぎるので、最後はほっとする絵で。

ダヴィット「ヴィレイン伯爵夫人とその娘」
ナポレオンに愛された画家。親子よく似ていて、遺伝子をしっかり感じる親子の肖像画

 

奥のあの馬の絵もとても有名ですね。

 

時刻は12時過ぎ。大英博物館同様、まだ全然見きれていないけど、13時半の空港行きバスに乗らないといけないので、そろそろ出ます。

美術館を出ると、まず目に入るのがトラファルガー広場の華やかなクリスマスマーケット。と、物乞いの人。資本主義の両面が同時に集う居心地の悪さ。

オランダにももちろんいるけれど、オランダの物乞いの人たちは、いかに自分たちは貧しくて困っているかをプレゼンして、しつこくはないけれど、説得しようとする明るさがある。そして、ロンドンより人々はずっと気軽に小銭を差し出している。50セントとか25セントとか。自分の朝食用のバナナとかあったかいコーヒーとかあげている人もいます。

 

スーツケースを受け取って、バス停に向かいます。たくさんの人で溢れるオックスフォード・ストリート。

バス停はハイド・パーク沿いのマーブル・アーチ。

帰りのイージージェットも安定の1時間半遅れ。

しょうがないので、空港内をぶらぶらして時間を潰す。ルートン空港にもフォートナム&メイソンの商品が一通り揃っていました。

スキポールには結局22:15着。

インターシティとトラムを乗り継いで寮に戻ったら、23:30前後でした。

 

それではこれでロンドン旅行記終了です。次からは、ウィーン・プラハ旅行記を始めたいと思います。もし、宜しかったらまたお付き合いください。